建築文化継承機構

JIA-KIT建築アーカイヴスの歩み

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山崎 幹泰(金沢工業大学)

JIA日本建築家協会では2003年頃から建築アーカイヴス設立のための活動を始め、アーカイヴスの収蔵先を模索していました。その状況の中で、JIA所蔵の図面ライブラリーやNコレクション(N=中村敏男氏)などを、委員の一人である金沢工業大学教授・水野一郎の紹介で、金沢工業大学ライブラリーセンターに保管委託することになりました。
これを機に、金沢工業大学教授・竺覚暁を中心に、2007年3月、金沢工業大学に建築アーカイヴス研究所を立ち上げ、収蔵スペース、研究員、予算を確保して研究を始めるとともに、JIAと金沢工業大学の共同による「JIA-KIT建築アーカイヴス」を設立するに至りました。
当初、JIA-KIT建築アーカイヴスが目的としたのは「手書き図面」の収集・整理・保管・公開でした。CADによる設計図面の作成が一般化し、手書き図面が倉庫に入ったままになり、建築家の死去や事務所の閉鎖により棄却されること、一方で海外の建築資料館、美術館などが日本の建築家資料の収集に興味を持ちつつあり、資料が国内外に散逸する恐れがあったことなどの事情から、まずは緊急避難的に収集を開始しました。
収集方針は当初、手書き図面に限るとしていましたが、収集を始めてみると、構造、設備、施工記録などの図面、書類、建築模型、フィールドサーベイなどの実測図面、家具、工業デザイン、造園などの図面も寄せられるようになりました。建築資料の幅広さを改めて認識するとともに、取捨選択することの難しさもあり、できるだけ幅広く収集していくように方針転換しました。寄贈者から新たな寄贈者を紹介いただくことも多くあります。また活動が広がることでJIA会員以外の資料や、地域の資料も寄せられるようになり、JIA-KITアーカイヴスとは別枠として、そうした資料の受け入れも研究所では進めています。

受け入れ窓口となるJIA側は、主としてJIAに所属する建築家、設計事務所に当アーカイヴスの存在と存在意義を周知し、資料の収集にあたっています。周知の方法は主に、JIA全国大会におけるアーカイヴスシンポジウムと、JIA建築家会館におけるアーカイヴス展示会、および出版事業です。アーカイヴスシンポジウム「偉大な先輩建築家に学ぶ」は、2014年からこれまで6回開催し、大会会場となる地域にゆかりのある建築家を取り上げ、その後継者、関係者などが語りあうことでその教えを学ぶ、という趣旨で実施しています。アーカイヴス展示会は、2016年に相田武文展をJIA建築家会館で開催して以降、毎年実施するとともに、特に好評であった宮脇檀展は、全国の大学や美術館などでの巡回展も行いました。
なお、当初JIA内の一委員会が窓口となる体制でしたが、組織の継続性を図るために2014年8月にはNPO建築文化継承機構を設立。JIAとNPO、および金沢工業大学の三者が協力して、アーカイヴスの収集・整理・保管・公開を行う体制に移行しました。委員長は2009年まで大宇根弘司氏が、2009年以降現在まで仙田満氏が務めています。

活動開始から14年が経過し、2021年3月現在、JIA-KIT建築アーカイヴスでは34人の建築家・団体などと契約を行い、資料点数はおよそ70万点を数えます。2017年3月まで竺覚暁が金沢工業大学建築アーカイヴス研究所長を務め、その後、山崎が二代目所長を務めています。
資料の受け入れにあたっては、寄贈の契約を交わした後、資料を研究所に運び入れ、研究員と本学学生が中心になって内容を確認し、資料リストを作成します。リストを作成した後、全ての資料を中性紙保存箱に入れ、資料番号を付してリストと対応できるようにする、というのが原則的な方針です。
受け入れた資料は、できるだけ早く公開するため、金沢工業大学の展示室を利用し、2009年より年一回のペースで展示会を行っています。展示構成やレイアウトの計画、紹介パネルや建築模型の作成などは、学生とともに行うことで、建築資料を学生への教育に活用しています。また、展示以外の資料利用については、整理の進捗状況にかかわらず、研究所内での閲覧を原則として、可能な限り公開しています。

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